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2012年12月9日日曜日

ケサディーラ Quesadilla



ケサディーラ Quesadilla
何を隠そう私は15年前までハワイは嫌いだったのである。正確には嫌いなフリをしていたのである。30年前にトランジットで訪れたハワイは喧騒と雑踏の中良い思い出は無かった。これならグァムもサイパンも変わらないとハワイに対して穿ったものの見方をしていた。それが一日にして変わったのがロサンゼルスからハワイに到着して渡ったマウイでの休暇だった。今までイメージしていたハワイとは別世界のそこは風も、光も、匂いも私の知っているそれではなかった。

マウイ島が私のお気に入りになるまでそう回数は必要なかった。そしてマウイ島の中でも自分が落ち着ける場所を見つけた。それがカパルアだ。マウイ島の他の場所に行ってもやはり落ち着かない。南洋松の聳える姿を見ると戻ってきたと感じるのだ。

私はほとんど観光というものをしない。それとアクティビティというものが好きになれない。ずっとやっているスポーツの延長ならまだしも初めてのスポーツに興じる事はまるで遊園地のアトラクションを経験しているようで腑が落ち着かない。だから日がなプールサイドや椰子の木陰で持ってきた本を読む。他は何もしない。

15年前にはカバルアベイホテルがあった。ロビーにはペギーホッパーに描かれた大きな油絵が飾られていた。ハワイアンの女性が猫を愛でながら優しいまなざしで見つめている。開け放たれた木製の大窓から太平洋の乾いた風が通り抜ける。

数年前そのホテルも取り壊された。それからはその場所に出来るだけ近い場所に立つホテルに泊った。そのホテルの調度類はいささか欧米の貴族趣味で私には好みではなかったが、とにかく立地は素晴らしい。プールは階段式になっていて、いつも空いている。プールから続く芝生は広大でなだらかな弧を描きながらビーチまで続いている。芝生の向こうには古代の墓地がこんもりとした緑の結界で守られている。プールとビーチを行ったり来たりしながら持ってきた本を読む。ときおりハンモックに寝転びながら。

それでもお腹はすく。マウイでは軽いビールと決めている。水のように飲むには軽いビールが一番だ。私は必ずここで主題のケサディーラを頼むのである。

最初に食べたここのケサディーラは絶品だった。私は今もこの時のレシピで作っている。

そもそも、メキシコではタコスとブリトーとはどこが違うのだろう。作り方も色々あり、陽気なお国柄ゆえ煩いことは言わないだろうが、前者は調理したものを入れてトルティーヤにそのままラップして食すのに対して、ケサディーラは包んでから再度トルティーヤを調理すると勝手に解釈している。当初ここで食べたケサディーラにはindian Quesadillaと書かれていた。中には行っていたのはタンドリーで焼かれたクミンやターメリックなどで味付けされたターキーと細かく切られた玉ねぎ、トマト、それに生のコリアンダーとチーズが入っていた。もちろんトネルティーヤは色良く焼かれていた。これにワカモーレといわれるアヴォガドのディプと少し辛いフレッシュなチリトマトが添えられていた。昨年食べたそれはもはやインド風ではなく、ターキーからチキンに変更されていたが美味しさは中々のものだった。

マウイ島に限らずオアフでももちろん本場に近い西海岸でも多くのケサディーラがファストフードとして供されている。でもここのケサディーラを是非一度食べてごらんなさい。ケサディーラの概念が変わること請け合いです。

東の横綱を挙げたのに西が不在では宜しくないので、あえて西の筆頭として挙げるとすればラナイ島のフォーシーズンズ・マネレ・ベイで食したベジタブル・ケサデーラである。

色とりどりの野菜が詰め込まれ、皮には芸術的な焼き色が付いている。メキシコ料理は豪快だと決めつけていれば、ここはそれに反して上品この上ない。いくらでも食べられそうな軽やかさが特徴だ。何故西にしたかと言えば、それはすぐ近くの目と鼻の先の島であってもマウイ島とは風が違うのだ。ここはマウイより幾分乾いている。逆にモロカイ島はずっと重くなる。風もメニューの一部なのだ。

オアフ島にも同様のケサディーラがあるがとうていこの二つには及ばない。オアフ島の高級ホテル、ハレクラニでも食したが残念ながら番付は関脇にも入れることは出来なかった。