このお店は大切なお店で人にはあまり教えたくないのですが、この文章を読んでくれる方ならばきっとこの店の良さが分かっていただけると確信し紹介することにしました。
この店には不思議な魅力があります。通年供される生牡蠣と白ワインが美味しいのは当たり前としてもその引力とも呼べるお店の魔法についぞ引き寄せられてしまいます。
その店の名前はココモ=CoCoMoといい、比ヶ浜海岸の真ん中134号線沿いにあります。冬場はお休みが多いの(後で分かります)でいつも振られてしまい中々入ることが出来はなかったのですが、数年前、運良く入ることが出来た初秋の夕陽に完全にノックアウトさせられてしまいました。
湘南には綺麗な夕陽を眺められる店は多くあります。この店もそんなお店の一つですが、ここの特徴は窓がいつも開け放されていることです。開け放つことの出来ない季節はクローズとなるので営業しているときはいつもオープンなのです。やや薄暗い店内と相まって、大きな木製の窓枠がまるで絵画の額縁のように前面の景色を切り取って見せてくれます。その表情は刻一刻と変化し太陽が沈み夕闇に包まれるまで続きます。先程まで砂浜ではしゃいでいた修学旅行生がいなくなり、代わって恋人たちが浜辺に座り込み、さらにその二人もいなくなり、トビが太陽の方に向かって鳴きながら去っていきます。ガラスが無いということだけでこれほど景色と自分が一体になるとは知りませんでした。
そしてこの美しい景色にマッチしたシンプルで飽きのこない牡蠣を中心とした料理もこのシチュエーションの一部のようです。
お店の内装も自然体です。新しいピカピカしたものは一つもありません。時の経過とともに自然のものが自然に帰っていくごくふつうの事がここではインテリアになっています。
店もそうならギャルソンの女の子もとても自然体です。いつも明るく海のような穏やかさで、一言二言話すうちに地元のサーファーであることがすぐわかります。目の前の海をいつも眺めながら働いていると小さなことなどどうでも良いと心の芯が太くなるのかもしれません。一本頼んだデキャンタの白ワインもなくなり、追加をオーダーしながら今週の波の話題が続きます。
昼間のサーフィンを終えて疲れた身体にこれほど癒しの空間はありません。白ワインが身体の隅々まで染み渡る頃には肩の筋肉痛もなくなり、景色は月を抱えながら夜の静寂が降りてきます。サーファーにとってこれ以上何が必要なのでしょう。