我が家では毎年ひな祭りの時に妻がチラシ寿司を作る。娘が生まれてからなので28年になる。岐阜に住んでいた時にデザイナーズブランドのテナントより貰った赤いノートに作り方と写真が貼られている。紙は黄ばんであちこちに沁みがあるが作り続けてきた勲章のようでもある。
一度、手抜きして作ったことがある。家族全員から「アレ?今年の美味しくないね」と見透かされた。それ以来、レシピに忠実に作っている。
私は外ではチラシ寿司を食べない。我が家のちらし寿司が世界一美味しいと思っているからだ。例え、専門の職人が最高の素材を集めて作るちらし寿司があったとしても我が家のそれを選ぶ。それが我が家の味だからだ。
妻はこの料理の時ばかりは気合の入れ方が違う。いつもは目分量なのに計量カップや秤で重さや分量を測り、タイマーを使って正確に調理する。
もっともその日のために前日の体調管理まで行うのだから普段の姿からは想像出来ない。
今年もそんな季節がやってきた。娘も嫁にいき長年の我が家の風習も終わりを告げるのかと思いきや、嫁に行った娘達も里帰りした。パリに行っている息子からもちらし寿司の催促がきた。よって妻は徹夜で9つのお重をチラシ寿司で満載にすることになった次第である。