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2013年11月13日水曜日

舌の記憶


私の好きなビストロでのディナーは大変満足のいくものであったがワインについては己の経験と知識のなさにやや自己嫌悪に陥った。ソムリエ殿には大変申し訳無いがワインというのは好き嫌いがある。その好みまで観慮してワインを選ぶということはなかなか難しいのであるからソムリエ殿に文句をつけることではない。私が拘っていたところは鴨というジビエひとつとっても季節、その調理法によって選ばれるワインが異なってくるということだ。実は美味しい料理を楽しんでもらいたいとの一念から前々日に鴨を料理し相性を確かめてみたのだ。野生の鴨は入手困難だったので京鴨を用いた。骨もないので軽くローストしてキャトルエピスで味付けした。

フランス料理のワインとの相性ではそのソースに近いワインを選ぶという基本がある。ところが当日作ったものはローストで鴨の味が直接舌に来る。この場合には開栓したばかりの南ローヌのグルナッシュではバランスが取れなかったのだ。翌日、一日置いたそれはかなり相性が良くなっていたがまあまあという出来栄えだった。
そこで私はやはりサルミソースのコクを考え、ブルゴーニュのシャッサーニュモンラッシ・プリミアクリュを選ぼうと決めていた。このワインは高年齢の樹木を用いるため輪郭がはっきりしていて落ち着いている。ところがどうだろうそのワインは品切れとのことである。その代わりに選んだのがシャンポールミジュニー2011である。ミジュニーらしい薄明るい液体は果実もあり滑らかであるがいかんせん若すぎる。恐らく樹齢は20年も経っていないのではないか。ミジェニー村はぶどうの病気によって多くの樹木を失っていたからだ。それとあまりにも早く供されたため魚のサーブの時にこのワインが注がれる始末だった。これはいけない、ワインは全く料理とかけ別の味わいとなって胃袋に消えてしまった。

メインの青首鴨のサルミソースが運ばれてきた時にはワインのグラスは空なっていた。しかたなく、ジゴンダスを頼んだ。グルナッシュらしい軽さと渋さが口元に残りローヌらしい力強さを感じたが如何せんフルーティ過ぎる。鹿肉には良いだろうが、この店のサルミソースは軽く仕上がっているので相性は今ひとつだった。やはり強すぎるフルーツ香が邪魔をする。

何故そうなのかと少ない経験と虚ろな頭のなかから昔のページを紐解いてみる。今から5年前にカンテサンスで鴨を食していた。その時のメニューはシャラン産鴨のロースト島らっきょソース、鷹が峰とうがらし添えというものだった。季節は8月。そうさっぱりとした家禽に近い鴨を軽めのソースで仕上げたものだった。これにソムリエが合わせたのが先ほどのシャンポール・ミジェニーだった。そうか私の試験は間違っていなかったのだ、だからローストのようなさっぱり軽めにミジェニーを合わせていたのだ。ということは少なからず肉の個性の強い青首鴨のサルミソースにはよりはっきりとしたワインのほうがあうということだ。グルナッシュを一晩寝かせたような滑らかさ、数年前、天然の舞茸に合わせて供されたワイン・・・・そうやはりピノ・ノワールしかない。あの時のボーヌロマネのように・・今閃いた・・・