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2013年11月6日水曜日

洋服について


 私はどちらかというとお洒落ではない。ブランドにもほとんど興味が無い。ではどんな服でも良いのかと問われれば否である。Tシャツ一枚でも着たくないものは着たくない。そこは頑固である。

物心ついて初めて自分の洋服を買ったのは小学生の時だった。それまでは洋服は親が用意するものを着ていたからだ。第一そんなことを言う余裕なんてなかった。初めて買った(買ってもらった)のは何の変哲もないサックスブルーのカッターシャツだった。新宿の小田急百貨店のシャツ売り場である。それ以来シャツにはうるさくなった。

高校生の頃、お洒落をしていることがかえってかっこ悪いと思うようになった。恐らく当時の高校生のほとんどが読んだであろう庄司薫の小説の影響からかもしれない。その後テレビでは主人公が裾が敗れたフレアーのジーパンに下駄、そしてカーキ色のアーミージャケットを着て吉祥寺の街を闊歩していた。田舎の高校生はその姿に憧れた。

上京してアメ横の中田商店に通った。アミーテイストが好きになったのはこの店のせいかもしれない。ただ、私には純粋な軍物よりも当時アメリカから輸入されていたカジュアルな洋服が気に入っていた。厚手のチェックウール生地で裏地にキルティングが施してあるTPOジャケットは私のお気に入りだった。その後、上野は遠くなり、渋谷に出かけるようになった。百軒店のミウラ&サンズ、公園通りバックドロップは必ず立ち寄った。パルコはまだ元気だった。

社会人になるとカジュアルな服と並行してスーツが必要になった。ほとんどは百貨店の社販で済ませたが、懇意にしていたテナントの店長から安くしてもらって気に入ったジャケットやパンツを買った。グレーフランネルのスーツやブラックタータンのパンツ、オリーブのウールギャバジンのストレッチパンツに絹と麻の混紡のトロピカルジャケットを合わせた。ジャケットもパンツもAVON HOUSEのものだった。

その後日本はバブルの絶頂期に入っていく。洋服は海外のブランド物ばかりになって、値札も10倍に跳ね上がった。この頃こうしたヨーロッパのブランド服は一切買わなかった。どう見ても似合うとは思わなかったからだ。そしてスーツのラペルの幅は猫の目のように太くなったり、細くなったりした。建築でもそうだけれども少し前に流行ったデザインというものが一番ダサい。だから流行遅れになるとそのままゴミ箱行きになる。

今好きなのはストーリーのある服。どんな人に着てもらいたいかはっきり主張する服が好きだ。フィッツジェラルドは嫌だけれどヘミングウェイには着てほしい服とか。

屋根裏にあった厚手のカーキ色のマーガレットハウエルのダッフルコートを出してみた。20年前に買ったものだ。ところどころ虫に食われているがまだまだどうしてカッコいい。
今一番欲しいのはオールデンのブーツ。
そのブーツにサンドベージュの太畝のコーディロイパンツとオフホワイトのハイネックのセーター、そしてその上にハリス・ツイードのジャケットを着て、葉山のデニーズのテラスでケルアックでも読みながら午後の曳航を楽しむ・・そう男は皆、ナルシストなのです・・