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2012年10月31日水曜日
1981年のゴーストライダー
一人になった洋一は車の中でカーラジオのボリュームを大きくして、流れてくるシーナイーストンのモダンガールに指先のリズムをあわせて、ハンドルをコツコツと叩いていた。
フロントガラスには雨粒が集まり、車の先にあるコンビニの電球が滲んでいった。
曲が変わり、ジョン&ヨーコの「ダブルファンタジー」が流れ始めたので、洋一はラジオを切ってしまった。別にジョンレノンやオノヨーコが嫌いと言う訳ではなかったが、このアルバムのジャケットに使われた二人の写真は好きにはなれなかった。
洋一にとってビートルズやジョンは大人の世界に対する反抗の証でもあった。親や年配者にはよくビートルズのような長髪にするんじゃないと窘められた。そのたびに洋一は表向きは理解したようなことを言いながら、部屋ではヘットフォンをしてヘルタースケルターやゲットバックを大音量で聞いていたのだ。
洋一は一人っ子だった。まわりは兄弟や姉妹のいる家庭がほとんどで、何故かしら洋一は一人っ子であることにある種の罪悪感を感じていた。自分は生まれてくるんじゃなかったという後ろめたさや自責の気持は洋一の心に冷たいキレットの先のようなものを植え付けた。
小袋を紫色のカーディガンの中に隠すように小走りで優子は車に戻ってきた。
車のドアを開け助手席に滑り込んできた優子は自分の濡れた髪と肩を手で払って、袋の中からまだ湯気の出ている小さな白いものを取り出して、半分を洋一に渡した。
優子は半分のそれを食べながらぼんやり外を見ていた。
洋一は自分のそれが「好きな方じゃない」ことを知っていたが、何も言わずに缶コーヒーでそれを流し込んだ。
優子はぽつりと「明日も雨かな・・・・」と独り言のようにつぶやいたが洋一は何も言わなかった。
小さな車はコンビニの駐車場を出て、方向を180度変え西へ向かった。
まだ真っ暗な闇の世界に高速道路の路面に映し出された電燈が影絵のように笑っている。
やがて車は高速道路を降りて、海岸線と並行に走り始めた。
目印の警察署で左折し、まっすぐ伸びる海岸線と垂直な道に出る頃には雨は止んで、洋一と同じような青緑色したサーフラックにボードを積んだサーファーが集まっていた。
東の空が漆黒から群青にそして紫から茜色に変わる。
洋一はシートを倒してその空の色を見ていた。
洋一は優子と出会った3カ月前の事を思い出していた。
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