村上春樹にご用心 Ⅲ
以前にも村上春樹氏が本の中でも明示していたように、作家は様々な経験を粉々に粉砕し、そして再構築する作業だと言っていたが、私の様に小心者は氏の作品を読むたびに、心の中に小さな皺が折り重なりそれが助長される。
「国境の南、太陽の西」の読後感の苦々しさは、単に青春の後悔では済まされない、人間の性を感ぜずにはいられなかった。人間とはなんと我儘で理不尽な生き物なのか、小枝を這うシャクトリ虫の方がさぞ生きている価値があるとしか思えない、心の中の闇。
その経験を通してしか優しくなれない、人間の愚かさは私を打ちのめす。
「回転木馬のデット・ヒート」の中で画廊の女主人はいう。
「自分自身の体験によってしか学びとることのできない貴重な教訓。それはこういうことです。人は何かを消し去ることは出来ない。消え去ることを待つしかないということです。」
人生と言う長い時間の中で灼熱焦炎の地獄の苦しみは現存し、私達を苦しめる。何故なら、決して私達によって解決されない命題だから。
今日もまた私はまたひとつ解決不能の命題を作りに二つの月の出る街に彷徨う。
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