携帯電話が普及する前、自動車電話というものがあった。そう過去形。黒いアンテナをトランクリッドにちょんと立たせて一目でそれを持っていることが分かった。中には電話を取り付けてないのにアンテナだけ付けている人もいた。当時は運転中の電話も法律で禁止されている訳ではなかったから運転中堂々と電話を掛けていた。危なっかしくてたまらない。あるとき私は自分の車のそれが不格好であることが気になった。それ以来外してしまった。それ以来電話とは縁のない生活である。
考えてみると本当に急用というのは無いものである。今は地図や所用時間の検索で利用するので持ち歩いているが電話としてはほとんど使っていない。だから最初から機内モード。
もっとも、そんな行動の陰には二つの事があると思う。ひとつはある新聞記者の記事を読んだ事が大きく影響しているからかもしれない。
それはその記者がまだ駆け出しだった頃、尊敬するプロ棋士の自宅に取材に行ったときのことである。プロ棋士は記者に会うなり、今日は1時間あなたのために時間を作りました。何でも聞いて下さい。というと電話線のコンセントを抜いたというのである。記者は驚くと同時に、自分のためだけに時間を作ってくれた事に感激するとともに、自分がそのように今まで取材をしていたのか顧みて恥ずかしくなったという話である。
もうひとつの原因は電話では中々準備が出来ないということだ。何の準備かというと話す内容の準備である。私は手紙を書いてもその日には出さない。一晩考えてから出すことにしている。商談についてもそうだ。相手との交渉についてあれこれ逡巡する。これが電話では出来ないのだ。だからビジネスに電話が必要と言うのはよほど頭の回転が速く、瞬時にあれこれ考えることのできる高速CPUの頭脳を持ったご仁か、はたまたよほど何も考えずに話している人だと思う。私はそんな能力がないのだから敬遠する理由はある。
やはり目の前に足を運んで会いに来てくれた人が最優先されるべきである。電話はその大切な時間を断絶させる。私のところに来る人では滅多にいないが、若い営業マンの中には携帯電話の電源を切らないものもいる。こういう人には次から私は会わないから良いが、職人の中でも仕事中しょっちゅう電話が鳴りっぱなしの人がいる。こういう手合いは決まって仕事が出来ない。人に会っている時くらい携帯電話の電源を切る。こんな簡単な事が出来ない人間が本当に多くて困る。えっ、私はメールだって?それだって同じでしょ。人に会っているのに携帯のメールをちらちらチェックしている人は同様に失礼な輩だと思うが、残念ながら私の一番近くにいるのでお話はこの辺りにしておこう。その人とはビジネスはしませんからまあ仕方ない我慢しようか・・ひとりごとですから・・
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