勁草と北風
少年は北風に向かってペダルをこぐ
吹き付ける風は頬を切り裂くほど冷たい
橋の真ん中で自転車は押し戻されそうになる
それでも諦めず少年はぐっと腕に力を入れてペダルをこぐ
。
川面は海のように水しぶきをあげている
真っ青な空にとんびが一羽流れて行く
自分と周りの物すべてが異質であるような孤独感
そして喪失感
それでも少年は歯を食いしばってペダルをこぐ
思うようにならぬ歯がゆさは若さ故か、それとも運命か
勁草が風に強く押されながら波うっている
制服の内ポケットの一冊の文庫本が少年にとって唯一の盾だ
勁草が強いと知ったのはずっと後だった
少年は前を向いた
少年はさらにもっと強くペダルをこいだ
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