片原饅頭
上州人で30才以上の方ならこの名前を知らない人はいないだろう。
日本全国を探せば酒饅頭の類は数多あると思う。中の条から草津に向かう途中に岩井洞と言うドライブインがある。近所で捕獲されたツキノワグマが檻の中に入っているのを観た事もあるのではなかろうか。あのドライブインでも酒饅頭は売っていた。だが、これとは別物。皮が厚く、少しぶよぶよしている。
子供の頃の記憶だが片原饅頭の店は前橋のアーケードの中にあったと思う。恐らく私は8.9歳で母に連れられて前橋までやってきた時だと思う。当時我が家は車が無かった。
桐生から前橋まで行くには2通りある。ひとつは両毛線を使う。これはJR(国鉄)なので多くの人が使っていた。
もう一つは西桐生の駅から赤城山麓をなめるように進む上毛電鉄の電車に乗る。
あの時はこの上毛電鉄に乗っていったような気がする。
窓からは赤城山の山並みと反対側にはなだらかな丘陵が関東平野に延びる景色は日本の原風景のようでもある。今でもその長閑さは変わらないだろう。
桐生には百貨店が無かった。生活雑貨と衣料品はスーパーの長崎屋がある程度で前橋まで行かなければならなかった。といっても当時の前橋にあったのはスズランデパートぐらいで、後に西武百貨店が生まれたがいつしか消滅していた。
片原饅頭はもちろん出来たても旨いのだが、翌日、少し硬くなったものをストーブの上に置いてこんがりきつね色になったのを食べるのが通だった。お酒の飲めない小学生の私は焼き片原饅頭と緑茶で空腹を満たしたことを思い出す。
この店は当時積極的に障害者を雇用していた。彼らが一生懸命作る姿を子供心に見ていたのである。ターボーと仲良くなれたのもこんな素地があったからかもしれない。
この片原饅頭が廃業したと言うニュースを聞いた。子供のころから当たり前にあるものが姿を消すのはやはり寂しいものだ。そんなこんなで数年が過ぎた頃、今度はこの片原饅頭復活のニュースである。
プロの競輪選手で全国的にも名前の通った福島選手が復興するとあった。場所も前橋である。早速、ネットで調べてみたが通販はしていない。現地に出向くしか方法はなさそうだった。
前橋に立ち寄る用事は無くやきもきしていたら、昨日、饅頭がピンポンと呼び鈴を鳴らして入ってきた。妻の友人が娘の出産の陣中見舞いにこの片原饅頭を持ってきてくれたのである。手を出して食べようとした妻に「一日待てぇ」と言ったのは間違いなく私だった。
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