小柴のシャコ
江戸前の寿司屋で供されるシャコは身が硬くなっていて味の無いものが多い。なんとかその味を誤魔化すかのようにツメを塗る。シャコを嫌いな人はまずこの手シャコしか食べた事が無いのだろう。私もそうだった。
死ぬまでに一度、シャコを捕ってみたいと思う。筆先をすっと巣穴に潜らせて反対側に長い紐を結んでおく。シャコが外的を掴みだす習性を利用したものであるが穴から摘みあげられたシャコはさぞかし驚いた顔をしていることだろう。
このアナシャコ実はシャコとは別物である。味は似ているらしいから近縁種であろうか。
吊りあげられたシャコを馬鹿にしてはいけない。シャコは全身殺人兵器で武装するターミネーターのようなものだ。二枚貝の養殖をしている人達はこのシャコを目の敵にする。シャコのするどい刃がいとも簡単に貝の硬い殻を切る。水槽でシャコを飼っていた人が、ガラスの水槽をシャコの刃で壊されたと言う話も聞く位だから侮れまい。
7.8年前に瀬戸内のシャコを送ってくれた人がいた。大きな鍋にぐらぐらと熱湯を沸かしてシャコを投入する。そして茹であがったシャコを軍手で防備した左手でやわら持ちながら、右手に料理用のキッチン鋏で鋭い尾や頭の辺りを切り落とす。春先は「カツブシ」という卵を持ったメスが美味であるが、旨みはオスのほうが強い気がするが、こんなところも蟹に似ていると言われる所以であろうか。
あつあつのシャコを手でむんずとつかみ、からし酢醤油で戴く。その旨いのなんの、今まで食べたシャコは何だったのと思ってしまうだろう
。
小柴ではこのシャコの不良が続いている。もともと江戸前のシャコネタはここ小柴産が最良とされているようだが、ここ数年あまりの減少ぶりに禁漁が続いているようだ。
寿司屋でこのシャコのことをガレージという人がいる。戴けない。客ならまだしも店側でそう呼ぶとしたら、その店は失格である。業界言葉を一般の人に使うのは品格がないに等しいから。
そうそうシャコバサボテンという植物は葉がシャコのツメに似ているから付いた名前だった。
一度、産地の岡山でシャコを食べたことがある。それは旨かった。シャコがまだぷりぷりとした弾力を残し、臭みも全くなかった。店の名前は忘れたが、ショーケースもなく、木の箱にその日の魚が並べてある店だった。またいつか行ってみたいと思うが、中々行けない。誰か岡山に仕事を作ってくれたら即新幹線に飛び乗るのだが、いつになるやら。
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