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2013年1月24日木曜日

鯊釣り


鯊釣り

子供のころにはよく釣りをした。もっとも家のすぐ裏手に川が流れていて竿をもってちょつと出掛ければ済むような塩梅だった。近くに釣り具店はあったが餌のみみずを購入した事はなかった。その裏手の川で釣れる魚は「ハヤ」だった。東京ではこれを鯎(うぐい)というらしい。婚姻色になるとお腹にオレンジの縞模様が顕れる。もっともこのハヤを釣り竿で釣るようになったのはずっと大人になってからだった。小学生の頃は、半ズボンにシャツを捲りあげて両手を石の穴に突っ込み、むんずとつかみ取る。時折、ギギという毒の背びれをもった魚をつかんだ時にはひどい痛みと腫れに悩まされた。
鯊釣りをするようになったのはKさんの誘いだった。一昔前まで鯊は江戸前の海には沢山いて、庶民の台所を楽しませた。ところが江戸前の天麩羅の鯊は姿を消し、キスにとってかわられた。時折、ねずっぽという風体の悪い魚が供されるがあれはネズミゴチという別の魚である。もっともキスよりこちらの方が美味しいと私は思うが。
鯊釣りにはのべ竿がいい。リールなんていらない。水深に応じて2.3本用意するが出来れば鯊の感触が手に伝わるような柔らかく鋭敏な竿がよい。それにジャリメをちょんと引っかけて鯊の鼻先に垂らすのだ。鯊が小さい時にはイソメでは食べない。このジャリメの方が断然食いが良い。鯊は実は多種多様な魚である。先の陛下が研究されていたように日本近海だけでも相当の種類が確認されている。
小坪の港で釣り糸を垂らすと、真鯊は滅多に釣れない。替わりに岩鯊といわれる少し薄い色のこぶりの鯊が釣れる。真鯊には負けるが天麩羅にするとこれも上手い。
秋谷海岸で釣り糸を垂らした時には、鯊の代わりに黄色と黒の縞模様のはっきりした、キヌバリという魚が釣れた。あのときはバケツいっぱいほど釣れたが、その色から食べられそうもないので全て海に戻した。
鯊で一番美味しいところは、実は肝である。夏場に餌を十分に蓄えて大きくなった鯊の肝ほど美味しいものはない。そのさっぱりとした味わいに醤油をまぶして淡泊な鯊の身を戴く、最高のぜいたくである。カワハギより上品かつ貴重であると偏見を交えて申し上げる。


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