岸和田の筍
生の筍が美味しいと薦められて酷い目に会って生きた。エグクないという呪文は私には効かない。朝堀の美味しいものと言われて買ってきた筍も生で食べられなかった。
唯一、食べる事が出来たのは友人がロサンゼルスからの付き合いだと言っていた、大阪の「花菱」という和食の店だった。ここのシェフはアイアンシェフにも登場した強者で友人と一緒でなければ敷居が高くて入る事は出来なかったろう。それが甲子園の応援という護符の元、友人たちと席を同じくすることが出来たのだ。大阪の中心にあるその店のカウンターに運よく陣取った私達はその友人のお陰でこの初物の筍にありつけた訳である。
産地を聞くと岸和田(泉州)だと教えてくれた。京都のそれが有名であるがやはり時期の物、その時期によって産地は違ってくるのだそうだ。筍をきって鰹節と醤油で戴いた。旨い、口中に春の香りが広がり、ほんの少し苦みがあとから追いかけてくるが、苦すぎる事は無い。それよりもかつおと醤油の良い香りが立ちあがる。素晴らしい筍だった。帰りの新幹線では美味しい肴と勝利の美酒のためいささかメートルがあがりすぎたかもしれない。それ以来、生で食べられるものには出会っていない。
話は変わるが小さい頃、スキーに通っていた苗場には筍の形をした山があった。その山頂付近を筍山と呼んでいた記憶がある。雪が多い時はそれなりなのだが春先に雪が解け凍ったアイスバーンになると手強い斜面だった。地元のスキー学校のジュニアの選手育成コースではここにポールを立てる事があった。あれはいけない、転倒するとそのまま真っ逆さま物凄い勢いで落ちてしまう。特に私のように怖がりで尻込みをしたりするとエッジが効かなくなる。悔しい気持ちで上を見上げていた事を思い出す。それだからではないだろうが筍という言葉には敏感になる。これは息子にも遺伝したようだ。彼の場合は美味しい筍を食べたい一心ではあるが。
近くに美味しいたけのこがあると教えてくれた。都筑区で農園を営む高橋さんという方のたけのこだそうである。ふつう筍は地面に延びてしまうともうエグクて食べられない。地下にあるときに掘り起こす。ところがこの高橋さんの筍は地上に出てもエグクないという。どこで買えるのか聞くと都筑のJAだそうである。値段は決して安くないと言っていた一キロ千円と聞く。でも来年の旬の頃には買い求めてみよう。久々の生筍に出会うために。
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