このブログを検索

2013年6月24日月曜日

西陽のとんぺい焼き

西陽のとんぺい焼き
材木座に通うようになって20年が過ぎる。それは同時に犬を飼い始めて同じ年月が経ったと言う事だ。
我が家に最初にやってきた犬はゴールデンレトリバーで、女の子なのに家族に幸せを運ぶ魔法使いのようになって欲しいからとジーニーと言う男の子の名前を付けられてしまった。その犬とはよく材木座海岸を散歩した。聞きわけの良い子はノーリードでも大丈夫で、つねに私の目を見て行動していた。
子供達も幼かったが、ジーニーを連れて食べられる店しか入らなかった。それでも子供達は満足していた。
材木座海岸の中ほどに「かたつむり」という広島風お好み焼きを食べさせてくれる店があった。水色の建物が特徴で裏手には倉庫があり、そのすぐ近くに犬小屋があった。
目のくりっとしたキングチャールズスパニエルと大きな体躯のゴールデンリトリバーの男の子がいた。
その店につくと最初にその子たちを撫でて挨拶をしてから店に入った。私達は海が見える戸外のデッキに席を取り、思い思いの食べ物と飲み物を頼んだ。
この店の主人と思しき女性は、私達より幾分年上であったが、その凛とした表情や立ち振る舞いから、銀幕で活躍した女優のようでもあった。いや、きっと若き日はそれに近くお仕事をされた方だと推憶する。二人の娘さんは私達より幾分若く、その美形ぶりに驚く、すらっと長く延びた手足は母親譲りなのか、日本人離れした小顔で切れ長の目をしていた。
最初は姉にあたる人が調理をしていたが、何かの理由で姉が厨房に立てないようになり、妹が今度は調理を担当した。
私は必ずとんぺい焼きを注文した。とんぺい焼きというのは豚のバラ肉の上に生の卵と沢山の葱を散らしたあれである。ところがこのとんぺい焼きが微妙に違うのだ。いや、微妙ではない、はっきりと違うのである。
どちらが旨いと言う事を書くと、国際問題にも発展しかねない懸案なので明言は避けるが、この店のものより美味しいものを食べた事が無い。それほど美味なのである。
とんぺい焼きはバラ肉の歯触りと卵の焼き加減が肝要である。肉はカリカリとした食感でありながら、柔らかさも残さなければならない。卵も生ではいけないが、火の入りすぎには最も気をつけなければならない。
このとんぺい焼きを食べながら富士山の横に沈む夕日を見て麦酒を飲む。横には妻と娘や息子たちとジーニーがいる。これ以上の幸せはなかった。心満ち足りた時間はあっと言う間に過ぎてしまう。
店は数年前に売り渡され暫く閉店していたが、新しいオーナーが水色からアイボリーに壁を塗り替え、新しく店を始めた。その店の名前は「リプレイ」という。オーナーは元俳優と言うから、何かしらの縁があるのかもしれない。
とんぺい焼きはなくなってしまったけれど、デッキはまだある。ジーニーは亡くなり、娘が嫁ぎ、息子も多忙で中々一緒に散歩をする機会も少なくなったが、妻もそして2匹の犬も元気でいる。今年の夏には2匹の犬に妻と娘と娘の旦那そして孫も連れて来てみよう。西陽と麦酒は変わらないのだから。


出店 材木座「かたつむり 閉店」「リプレイ」







0 件のコメント: