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2013年6月25日火曜日

鯛の鯛

鯛の鯛
鯛の鯛をご存知の方は多いと思うが、鯛のエラに近い骨が鯛の形に似ていることからそう呼ばれる骨の事である。少し大きめの鯛なら容易に見付ける事が出来る。
私の生まれ育った街がいかに新鮮な魚介類が当時は手に入りにくかったか既に何度も訴えているのであるが、辛うじてこの鯛は食べた事がある。父親が結婚式の引き出物として家に持ち帰ってきたからだ。私の家は通称サンブン=産分(産業文化会館)の近くだった。ここには結婚式を挙げられる披露宴会場があり、周りの町村の人もここで結婚式を行うのが常だった。当時の引き出物は赤飯と鯛の塩焼きの尾頭付きが定番だった。赤飯は塩胡麻を振りかけて食べるのだが、もう一方の鯛がいけなかった。まるで煮干しのようにカチカチに硬くなってしまって、身をほぐそうとしても箸さえ受け付けない。やっとのことで身に箸が届くが塩辛くて食べられない。子供心に何で鯛が重用されるのか全く持って不思議だった。
上京して生の魚を食べるようになった。お寿司屋さんで鯛の握りを食べた時にこれが今まで塩焼きで食べていた同じ魚なのかと驚いた。それ以来、寿司ネタの鯛は好きになったが、進んで鯛の塩焼きにまで手が伸びる事は無かった。
魚好きの恩師にこの話をすると、それはもったいないと好相した。鯛は捨てるところの無い魚、腐っても鯛、つまりどんな調理法をしても美味しいというのである。
機会があって大阪に行く事になった。いつもは日帰りなのに今回は大阪で一泊する。妻たちとユニバーサルスタジオに来ていた息子と合流して、私達が先に帰るという女性たちに大変都合のよいスケジュールだった。そこでその策略に乗ったふりをして、何か旨いものを息子と食べに出掛けようと決めたが、そんな助べえ根性の時は大外れする。それではまずいと心して店を選定した。六本木に鯛めしの専門店があったことを思い出した。確かにその店の本店は大阪だった。もし失敗しても私の鯛に対する印象が変わる事にはならないし、恩師にも言いわけがつく。しかも、ここからならそう遠くない。よし決めた。電話をしてみると空いているとのことである。私達二人はタクシーでその店に向かった。
その店は「与太郎」という。私達は白木のカウンターに通され、鯛飯のコースを注文した。しばらくして突き出しや前菜が運ばれてきた。どれもシンプルだが丁寧に作ってある。明石の蛸を使った酢味噌和えも、蛸は適度に弾力がありながら歯でさっと噛み切れ、きゅうりがみずみずしくそれでいて全体は水っぽくならずに美味しかった。
そして真打ちの鯛飯が登場した。サワラのお櫃に丸ごと一尾の鯛が蒸されている。表面にうっすら焦げ目があるので、焼いて入れたのであろう。職人が慣れた手つきで鯛の身をほぐしご飯と混ぜ合せた。出来あがったご飯に好みで山椒を振りかける。旨い。ご飯と鯛の甘みが旨く重なり、最後にすうっと磯の香りがする。旨みが凝縮されていた。二人で三杯近くお代わりしたがそれでも余ってしまった。余ったものはプラスチックの容器に入れてくれたので私達はホテルに持ち帰った。
翌朝、息子と冷たくなった鯛ご飯を食べた。ん!!美味しい!!昨日の炊き立ての鯛飯も美味しかったが、冷たくなっても美味しい。味が複雑に変化している。二日目のカレーと恩師の言葉を思い出した。最後にこのとき息子は小学五年生だったことを付け加えておく。

出店  大阪「与太郎」





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