キァベの香り
ハワイという場所はどうして魅力的なのだろう。ホノルル空港に降り立つだけで日本とは違うハワイの香りと光に包まれる。もうすでに心はリラックスして日常から解き放たれている。この香りの元は生のレイから来るものだ。私は毎回生の花のプルメリアやオーキッドで作られたレイを空港で買いその香り旅の間中を楽しむ。
いくつかの骨董店を覗いてカイルアの橋を渡り、海沿いの道を真っ直ぐに進んでいくとその花の香りとは違う、食欲をそそる香りがしてきた。どこかの庭でバーベーキューをしているようだ、肉を焼く匂いにほのかに木の香ばしさが纏わりついている。
お盆を過ぎた頃のワイキキビーチは以外とガランとしている。騒々しいビーチは幾分静かになったがサンオイルが残り香のように砂にしみついている。
夕闇が街を覆い、ショーウィンドーが煌びやかな輝きを見せる頃、お気に入りのレインスプーナーの裏地柄のアロハを着て、ウィンドゥを眺めながらカラカウア大通りを東に進む。ウィンドウに移る自分は白い短パンの下は素足にデッキシューズでこれでも精一杯の正装をしている。
店は通りから一本裏のクヒオ通りに面している。少し古ぼけた建物の一階にずっと昔から寄り添うようによく馴染んだ看板が出ている。店の内装はマホガニーをふんだんに使った贅沢な作りだ。照明も適度におとされ、小さなステージで演奏が始まった。
二十年前、渋谷のシスコというレコード店でこの人のレコードを買った事がある。先輩に勧められて買った。アウディという名前がドイツ語で耳の事だという事もその時知った。
席に通され、メニューを開けようとすると昼間と同じ匂いがした。メニューにはこの店の肉はキァベと言う香木で軽くいぶしてあると書いてある。昼間のバーベーキューにもその香木が使われていたのか。
サラダをひとつ、付け合わせにスピナッツ、そしてキァベで炙られた11オンスのプライムリブを頼んだ。ワインはこの肉に合うカリフォルニアワインのカベルネソーヴィニョンを選んだ。
恭しく運ばれてきたステーキはキァベの香りを纏い、金色の輝きを放ちながら目の前に置かれた。
ナイフとフォークで肉を切り分け、大きめの塊で口に入れる。肉の味がしっかりとする。その余韻を楽しむようにワインを流し込む。カベルネの強烈な味が肉の味と溶けあい、何もかも胃袋に仕舞い込んでくれるようだ。
ワイキキの夜、東に歩いてステーキハウスに行く。レインスプナーのアロハを着て。
出店 ワイキキ「ハイズ・ステーキハウス」
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