シュークリーム 青葉台 メイプル
私は甘いものが苦手である。自分から好んで買い求めることはしないが、シュークリームだけは違う。
私が育ったK市にはNという洋菓子店があった。今はもう跡かたもなくなってしまった。
私がおぼろげに覚えているのは、父親が時折そこのケーキ帰ってくる姿だ。お土産で買ってくるその白い箱は幼い私には宝箱に思えた。私の父は一切お酒が飲めなかった。そして無類の甘党だった。その箱の中身はシュークリームとアップルパイと相場は決まっていた。父の大好物だからだ。
子供心にいつももっと食べたいと思っていた私はある年のお正月を明けた寒い北風の吹く日曜日にお年玉を握りしめてその洋菓子店に自転車で向かった。
店に着くなり荒い息を整える間もなく、「シュークリーム20個下さい」と紅潮した顔で店員に伝えた。そして白い箱を片手で持って踵を返すが如く家に戻り、誰にもひとつのシュークリームも渡さず20個のシュークリームをすべて食べたのだ。最初の10個までは味わって食べたが、残り7.8個を過ぎる辺りから、その甘さと匂いで気分が悪くなった。そして翌日ひどい腹痛に悩まされた。
普通ならこんな経験の後はシュークリームを見るのも嫌になるかもしれないが、私の場合は違っていた。シュークリームが好きという気持ちは変わらず、その気持ちは登記されたままであった。
横浜に引っ越してから青葉台にメイプルという洋菓子店があることを知った。そしてシュークリームが名物であることも。
横浜に来てから私達と最初に暮らしたジーニーというゴールデンレトリバーはことさらここのシュークリームが好きだった。いつも人数分プラス彼女の分を買って帰った。この頃と比べると大きさが幾分小さくなった気がするが味は変わらない。昔のままである。娘が嫁に行って人数がひとり減ったが、プラスセブとさくらの分を買うので以前よりひとつシュークリームが多くなった。