ただし、いささか日本の和牛についての考察は薄っぺらである。鎌倉東急の駅前にあるH商店をして、日本の和牛はおかずとしての要素が高く、厚く切って食べないのですき焼きやしゃぶしゃぶが向いているので、脂身の多い和牛が最適だと言わしめていた。この店など鎌倉に在住する人なら既知の事であるけれどこ゜く普通の肉屋だった。その店は最近、トレンドを意識して高級感のある店構えになったが、本当なら大町のK牛肉店や葉山のA牛肉店を取材して欲しかったが、それでは映画の構成にならないと脚本家が意識したのだろう。
確かに松坂牛や神戸牛のランクはサシの多さで等級が決まるのは昔からの習わしで仕方ないが、中勢以中店を取材しておきながら、赤身と熟成肉に触れないのは片手落ちである。特に最近はこの赤身と熟成肉に注目が集まっているのに残念である。
そもそも、日本のステーキハウスの代表として取材された「築地さいとう」は鉄板焼きのお店である。 確かに鉄板焼きもステーキの一つであろうが素材や趣向も違うので同じ目線で評価するべきではない。もちろん日本のステーキハウスはこの店のように鉄板焼きステーキの店が多い。しかし、それがイコールサシの多い和牛を志向すると言うのは思い違いである。
それともうひとつ、この映画が鼻をついたのは、まずエコロジーありきで始まっている。配合飼料はダメで、自然放牧が最高だと決めつけている。それが地球環境にやさしいからだと。そんな事を言われたら山がちで狭い国土の我が国など牛肉は庶民の口に入らなくなる。仕方なしに、オーストラリアやアメリカから輸入すれば長い距離を運ばれてくる燃料コストを考えてエコロジーになるのであろうか全くもって内容が陳腐である。内容も知らされず好相で映画に出演していた松坂の農家の方が可哀想である。
肉の味が濃ければそれが旨い牛ということになるのであろうか。若い牛は若い牛なりの、年老いた牛は年老いた牛なりの旨さや調理法があるはずだ。
映画の冒頭で硬そうな肉にエシャロットと仕上げにヘーゼルナッツオイルを掛ける料理はこの映画では番外となるが、硬い肉だって味付けと調理法で旨くなるという良い例なのにとても残念である。
えっ、それを食べたことがあるかって?
もちろんあります。日本のBLTステーキハウスでランチメニューとして提供しています。因みに肉は前足の肩の部分です。
2015年10月
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