今でも卵料理が好きだ。数多ある卵料理の中で目玉焼きというのはいつも脇役、カニ玉のように宝塚歌劇団のような豪華絢爛さも、おでんの玉子のような、しみじみとした郷愁を誘う演歌の風情もない。ただ私達のそばにいつもいる。
あるときスタッフのA女史が「美味しい目玉焼きってどうやって作るんですか?」と私に訊ねてきた。いやはや、そんな質問を待ってたのよーんとばかり、内心、心躍る興奮を悟られぬように「ん、まず焼き方だね」とコホンと咳の一つもしながら冷静沈着を装い説明をした。
実はテレビのある番組で有名な料理評論家が日本一美味しい目玉焼きの作り方を披露していたからだ。目玉焼きの名誉のために断っておくが、世の多くの目玉焼きは心をこめて作られてはいない。おいしい目玉焼きをつくろうと思って作られる目玉焼きが果たしてこの日本にどれぐらいあるのだろうか。
フライパンは中火、熱くなったら少量の油を入れる。私は、なたね油にした。油をフライパンにまわして、真ん中に玉子を割り入れる。パチパチ音がして、周りがカールしそうになったら弱火にして、箸で白身をつついてフライパンに白身の新しいトコロを触れさせる禁断の儀式だ。その時、間違っても蓋をしたり、水を入れてはいけない。黄身が白く濁って白内障(白内障の人ごめんなさい)のようになってしまう。ここは辛抱が肝要。そして黄身に薄い透明の膜ができて、こぼれないようになったら出来上がりだ。白身のまわりは香ばしくうすい焦げが出来ていれば完璧だ。私は出来たてに白胡椒と塩少々をお好みで用意する。間違っても黒胡椒であってはならない。