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2013年6月11日火曜日

分袖と共感

分袖と共感

妻の父が逝去した。79歳だった。私をこの道に引き入れた人であり、色々な意味で教師でもあり、反面教師でもあった。
私がサラリーマンをしていた時に「君は社長になれるのかな、なれないなら会社でもやってみたら」と私に誘い水を仕向けた。意気地の無い私はさっさと会社を辞めこの道に入った。
ところが言うとやるのとは大違い、サラリーマンをしていた時の気楽さは何処かへ行ってしまった。絶えず不安と心労で眠れない日々が続いた。
私が分袖と書いたが、義父もきっと同じだったのだろう。親分肌の実父と同じ道を歩みながら何か違うと感じて自分の道を歩んできたのだと思う。私も同様だった。
私が会社を大きな会社にするよりも従業員を大切にする偉大な商店で良いと思ったのもその反動だった。
義父は人の扱い方とお金の使い方が本当に下手くそだった。つい、かっこをつけてしまう。本心ではそんな事を思っていないのに口にした罵詈雑言が人を遠ざけてしまう。
誰かが言っていたお金を儲けるようになるのは1代で出来る。しかし、お金を上手く使えるようにはそう簡単にはならない。確かにその格言はあたっている。
晩年は孤独だったに違いない。そんな義父を見ているから私は他人と容易に仲良くなれない。そう私は孤独になるのが怖いのだ。
人は生まれてくるとき満面の笑顔で迎えられ、死んでいく時悲しみの涙で送られるのが幸せだと誰かが言っていたが、義父もその点では幸せだったに違いない。
私など死する時には娘は離れていて、息子も日本にいるか分からない。その幸せを担保できる保証さえない。それも人生、これも人生である。受け入れるしかない人生はリセット出来ないのだから。合掌。







出藍の誉れ

出藍の誉れ

この店は以前にも登場した。そう、浜田山のたんたん亭出身なのだ。
ガソリンスタンドが少なくなって困るとお嘆きの方も多いと思うが、私もそんな一人である。私の場合は毎日、神奈川と東京を往復するため、多飯食らいのポンコツ車は知らぬ間にガソリンの表示がエンプティを指していてドキッとする事がある。池尻の高速入口に近いガソリンスタンドはとても重宝していた。つまりは過去形である。ご多分にもれず閉店してしまったが、当時はここでガソリンを入れ、時折洗車もしてもらっていた。そんなある日、隣のビルの2階にあるラーメン屋さんに呼ばれるように入っていったのがこの店との邂逅であった。
店は小奇麗に整えられ、一見するとモダンなバーのような作りである。店内はカウンターのみで10名も座れば一杯になる。客は入口の券売機で好きなメニューを選び、店の人にチケットを渡す仕組みになっている。当時は今ほどではなかったが、現在は開店と同時に満席になり、外の階段まで客待ちの列が出来る。
実は今日までこの店で数回食べているが、確実に美味しくなっているのだ。つまり進化しているわけである。店は寡黙な3人の従業員がきびきびと自分の仕事をこなしている。
この店のスープは黒だしと白だしの二つがある。黒は醤油ベースで魚介の味は分からない。白は澄んだ透明のスープで魚介の味が少したつがくどいと言う事はない。はじめスープだけを飲むと少し濃いように思うが麺と一緒に食べるとそれも変わってくる。もっとも黒と白のミックスも頼めるようだが私はまだ頼んだ事は無い。
この店は本家と同様にワンタンも美味しい。巷で供されるワンタン麺の多くは麺と一緒にワンタンを茹でるためワンタンが柔らかくなりすぎている。そこへいくとここは違う。ワンタンと麺を時間差でこなしているからだ。
店内の全てが清潔に保たれ埃一つない。お箸は中細のストレート麺を食べやすいように箸先が工夫されている。器も綺麗に輝いている。
カウンターに座り調理する様子を見ていると、何やらお湯の入ったバットの中にさらに小さなバットを入れ煮卵を温め始めた。以前から暖かいスープや麺に冷たい煮卵が入ることに何となく違和感を持っていたのだが、ここまで丁寧に仕事をする店は初めてだった。
私は黒だしの煮卵入りである。妻は白だし煮卵入りを頼んだ。このところ焼き豚でなく煮豚のチャーシューを供する店が多い。トンコツや濃いスープならそれでも宜しかろうが、清んださっぱりしたスープにとろとろになった煮豚は合わない。しゃきっとした本家本元の赤く縁取られたチャーシューが合う。赤じゃなくてもいいだろうと言う声も聞こえるが断然赤いチャーシューを推す。何故なら、赤いチャーシューはそれを見ただけで私はこういうチャーシューなのと相手に直感的に訴える事が出来る。つまり、チャーシューの出所をあれこれ客が詮索しなくて済むからだ。見た目も大切とはこういう事だと思う。この店のそれはまさにそんなチャーシューだ。
スープを飲み終わって旨みの深さに驚いた。中目黒には塩ラーメンの美味しい店がある。
その店は野菜のエキスを抽出し旨みとして加えているが、魚介が入らないとやはり奥行きが足りなくなる。そこへいくとこの店のスープは完璧に旨みが広がり立体的になっている。
丁寧な仕事をする店に不味い店は無い。この店もそんな店のひとつだと断言する。まさに今、あぶらがのりきったそんな旬な店だ。

出店 池尻大橋「八雲」