甘鯛の酒焼き お雑煮 京都 なかむら
この店は言わずと知れた名店である。様々なガイド本にも紹介され、星さえ付いていたと記憶する。私は星には全くもって無関心なのであるが。まあそれはさておき、この店のルーツは魚屋である。若狭湾で取れたぐじ(甘鯛)を馴染みの料亭に卸していたと言う。それがいつしか仕出し屋をやるようになり、最後は料亭となったようだ。
この店の名物はなんと言っても一子相伝で受け継がれるこのぐじの酒焼きである。ここで
甘鯛について補足しておく。読んで字のごとく身が柔らかく仄かな甘みを感じる美味しい魚であるが、日本近海には4種類ほどあるらしい。その中でもアカとシロが主に食用とされるわけであるが漁獲量はアカが多く、味となるとシロに軍配が上がる。
この魚は鱗が柔らかくその鱗も食べることが出来る。つまり身が柔らかいのだ。この手の魚は新鮮か新鮮でないか直ぐわかる。時間がたつと魚にぬめりが出てくるからだ。
ここで使われている甘鯛はもちろん極上のものである。新鮮さもさることながら大きさが丁度いい。魚と言うのは大きさによって味が違う事はご存知であろうか。例えば10キロと4キロの鰤とでは味が全く違うのだ。ここの魚はこの手の料理法として最適な大きさという意味である。ゆっくりと時間を掛けて焼きあげられるのだろう。表面の皮が美味しい。
香ばしくて海の豊饒さを一気に口の中に感じさせてくる。そして身を綺麗に食べ終えたらその骨にお湯を掛けて戴く。骨と骨の間にある旨みが広がり素晴らしいスープになるのだ。
そしてもうひとつこの店の名物料理が雑煮である。京風の雑煮は白みそ仕立てが定番であるが、店により麩を使うところと丸餅を使うところがある。ここは丸餅だった。
ここの雑煮は一切出汁を使わないのだ。ただ自分の家で湧き出る水を使い、白みそだけで味付けする。究極の料理法である。ワインを嗜むご仁ならテロワールという言葉を聞いたことがあると思うが、まさにそれである。京都は至る所に湧水がある。しかし、それぞれの場所で味が異なるのだ。これはワインの土壌と似ている。そういえばぐじの焼き方もじっくり時間を掛けて火入れするそれはフランス料理の手法にもあったような気がした。
もっとも懐石料理に慣れていない私達は運ばれる料理をあっという間に完食し、次の料理が運ばれるまで長い合間を持て余していたのが一番印象的であったと告白する。