このブログを検索

2012年12月29日土曜日

鮨 日本橋 吉野寿司


鮨司 日本橋 吉野寿司

 以前にも書いたが蕎麦と寿司は私の天敵である。間違って入った店で好みでないものが出されたときには人生最大の失敗と嘆き悲しむからである。
 さらにこのところ勘違いしている店が増えている。どこかのタイヤメーカーの出している本に星が付くと、とたんに有頂天に浮かれて偉くなったように勘違いするのだから始末が悪い。こんな店はこちらから願い下げである。

 ところで日本橋のこの吉野寿司は友人のいきつけの店である。店の名前は知っていたが食したのはつい最近である。
 ひょんなことで築地の鮪の仲卸をやっている人と知り合いになった。その人がいうには鮪の中で本当に旨いのは赤身だそうである。何故なら、トロや中トロなど脂の多いところは舌が馬鹿になってしまうらしいのだ。だから上等とそうでないものも以外とわからないらしい。ところが赤身となると上物との差がはっきり出るのだそうだ。

 よい赤身は舌の上に乗せると包丁(ステンレスじゃないよ)の味がするといっていた。確かにここの赤身はその鉄分というかヘモグロビンというかその手の味がするのだ。
 赤身にコクがある。そして、もうひとつ良いのはすべて小ぶりなのだ。シャリが大きいのもご法度だが、ネタが大きすぎるのも困りものである。要するに口に入れた時のバランスなのだ。ここの寿司はそのバランスが実に宜しい。
 さらに食べている間に供されるつまみの類も最高である。多くの寿司屋では高級感を出そうとつまみに凝りすぎる。白子やウニ、アン肝などをこれでもかと調理する。しかし、私が食べたいのはもっとシンプルな物だ。寿司が生なので焼き物や炙りものがいい。ところが、そんなものをと言わんばかりに中々出そうとはしない。
 先日もここではげそを軽く炙って出してくれた。これが食べたかったというのが分かったようである。その時、妻は風邪で熱が38度近くあったが、私と同じく21貫食べたのは内緒にしておこう。
 

 


とんび岩



とんび岩
太一ことターボーの家と良平の家は直線距離にして500メートルしか離れていなかった。二人は学校から帰るとランドセルを放り投げるようにしていつも真っ暗になるまで遊んでいた。そんな二人のクラスに鈴木勝男が転校してきたのは小学校5年のときだった。
鈴木勝男は背が高くひょろっとしている。背が低いターボーとは対照的だ。勝男は埼玉から転校してきた、父親の仕事関係とか言っていたが、そもそもこの街の小学校で転校生は珍しい。小学校、中学校と学校は変わるが、生徒のメンツは変わらない。
クラスの担任が勝男の紹介を終えると、勝男を良平の席の隣に座らせた。先生は良平に宜しく頼むとポンと肩に手をおき、くるりと反転し黒板に向かった。良平はそう先生に言われたことが少し誇らしかった。
それから3か月が過ぎた。勝男は体育の授業では球技はあまり得意ではなかったが、駆足だけは早かった。今までクラスで一番早かった男子と競争した時も大差で勝利した。
勝男は痩せていたことでスイッチョンという渾名をもらった。この地方ではクツワムシに似た、ウマオイのことをスイッチョンと呼ぶ。ただし、勝男のそれはその駆け足の早さから「スイッチオン」をもじった訳でもあった。
3人は土曜日の午後、とんび岩に行く約束をした。とんび岩はその街の西に位置していた。周囲を山に囲まれているその街はどこへ出掛けて行っても山がすぐ追いつく。とんび岩はその山の中腹にあり、とんびが羽根をたたんでひょんと留まっている姿に似ているからつけられたようだ。良平は街を睥睨するようにその場所にあるその岩が好きだった。
3人とも小さなナイロンのナップサックを背負っていた。この街のはずれにある競艇場の開場20周年の記念に貰ったものだった。
途中の駄菓子屋で3人は飲み物を調達した。良平とターボーはグレープ味のチェリオを買った。勝男は透明のスプライトにした。
途中まで道は舗装されていたので3人は自転車でその小さな公園まで行った。公園に着くころには背中にびっしょりと汗をかいていた。山の稜線にそって3人は登り始めた。
途中、木の根っこが飛び出していて、足を取られそうになったが何とか半分辺りまでたどり着いた。さらに進もうと良平が二人を振り返ると、勝男が「変な虫がいる」と地面を指差した。ターボーがその虫を見る。それはオケラだった。勝男はオケラを見たことが無かったのだ。虫の好きなターボーがそのオケラを捕まえて、ビニールの袋に入れようとした。良平はターボーをたしなめるように、「オケラは明るいところにいると死んでしまう。目が見えない彼らは太陽の光をとても嫌うんだ。だから、持ち帰っても死んでしまう」ターボーは残念そうに袋からオケラを取り出し草むらに放した。
太陽が西の山に近づいたころ3人はとんび岩にたどり着いた。3人とも汗だくで疲れていた。岩は2段になっていて、丁度段と段の繋ぎ目が平らになっていた。そこに3人は腰を下し、持ってきた飲み物を飲んだ。眼下に自分たちの学校が見える。とても小さなその建物は模型を見ているみたいだった。こうして街を見てみるとあれだけ大きく広いと思っていた街も案外小さいものだと思った。この街から離れたことのない二人はこの街の外のことが気になった。どんな街があって、どこに続いているのか。漠然とした少年の気持ちはその後の二人の人生におおきく影響を与えることになる。