袖すりあうも
飲食店をやっていた頃、一日の売り上げが一定額以上に達すると大入り袋を配った。大した額ではないが目標を達成したという喜びを共有できた。そのような時には従業員を連れて夜食を食べに出掛けた。近場の恵比寿周辺が多かったが、私がお酒を飲まない日には車で多少の遠出もした。
その一つが青山墓地の入り口にあった台湾ラーメンを出す「かおたんラーメン
」だった。今もこの店は続いている。当時と同じように壊れそうな木造のバラックの建物のままだ。
焦がした葱の匂いが食欲を呼び起こす。飲食店をやっていたが二足のわらじで翌朝はサラリーマンと同じ時間に出社した。睡眠時間は4時間くらいだった。
毎朝、胃が疲れていた。当たり前だ、眠る前にラーメンを食べているのだから、でも無性に食べたくなる味だった。
その店がどうか分からないが、巷では人口調味料を使う中華料理店は目の敵にされているらしい。理由は体に良くないとのことだが、私は全然気にしない。高校生の時、友人の家の近くで食べていた店はおたまでその白い粉をすくって投入していたから今更言われても困る。
かおたんラーメンはそんな若き日の走り続けていた時の思い出だ。
この場所は西麻布も近く、お店をはねた飲食店に勤める女性客も見かける。あるときそれと思しき見ず知らずの隣り合わせの女性の酔客にもう一軒行こうと誘われた。足元も覚束ないその女性はシャネル風の黄色のスーツを着ていた。横顔をよくみるとうっすら口の周りに黒いものが・・・・そしてその体つきはなんとなくゴツゴツしている。私は目の据わったその「女性」にやんわり断りを入れ、後ろを振り返らず恵比寿に戻った。
出店 青山「かおたんラーメン」