卵好きのたまごサンド
私はたまごが大好きである。たまごがあれば他のおかずはどうでも良いと思えるくらいたまご好きなのである。目玉焼き、オムレツ、ゆでたまご何でもござれである。
初めてパリに行った時にモンマルトルの小さなホテルに泊まった。
エコノミーの窮屈なシートに10時間以上縛り付けられた長旅の疲れと時差で私の体はボロボロだった。そんな体調でも朝食はバターたっぷりのクロワッサンとコーヒーである。さすがにこんな時は胃に優しい和食が食べたかったが、それは無理なお話。仕方なく籠に置いてあるゆでたまごが私の唯一の食事だった。このときたまごをフランス語でウフという事を知った。毎日、毎日たまごばかり食べているので、小さなホテルでは私の渾名はムッシュー・ルフになったようだ。
疲労困憊でゆでたまごの殻をちぎりながらふと食堂の小さな窓からまだ薄暗いモンマルトルの広場を見ると、パリの小学生が親に手を引かれながら歩いていた。まるで映画のようなワンシーンだったのを思い出す。
話はたまごの話に戻そう。そうたまごサンドの話だ。
前にも書いたが、私はテレビに出演する土井さんをかなり信用している。もっとも父上の頃からだから2代にわたって食に関する嗜好ベクトルが似ていると感じているからだ。
父上が京都なかむらの先代の主人と一子相伝の椀物の作り方を著した本も持っているが、この件は昨年そのなかむらにいって体験することが出来たので別の機会に書くとして、その息子である土井氏がたまごサンドの作り方を今日の料理の中で披露していた。
それはたまごをよく潰し、クリームを入れると言うものだった。世界一美味しい朝食として膾炙したビルグレンジャー氏のスクランブルエッグも同様にクリームを入れる。
私はどちらかというとこのクリームを入れたたまごやき(スクランブルエッグ)はあまり好きではない。確かに口当たりはソフトでクリ―ミィであるがたまごの風味が消えてしまっている。たまごの白身と黄身はそれぞれ別の味がする。個人的には黄味はねっとりして少し硫黄臭く、白身はつるっとしていて草の味がするのが良いたまごだと思うがいかがであろう。それがマヨネーズという天使でやさしく結び付けられ私達の口に運ばれ混然一体となって胃の中に収まっていく。私が高校の時にアルバイトをしていたパン屋のそれはゆでたまごを包丁で荒く刻みマヨネーズと合せた。3年前立ち寄った時には新盛堂という名前だったそのパン屋はすでになくなっていた。
東銀座にアメリカというサンドウィッチの店がある。この頃はお笑いの若手がテレビで紹介した事もあるので耳にしたことのある人も多いのではないかと思うが、何分、量が多すぎるのと、どうしても手で持って一口でいけない所がイマイチなのだが、たまごの混ぜ具合は良い線いっていると思う。こんな天下無敵のたまごサンドであるが唯一の問題は呑みこみずらいところにある。歳をとるととにかくパサつくものが呑みこみにくくなる。私はその回避法としてこんなとき「仕方なく」ビールで流し込むことにしている。あくまで「仕方なく」である。だからたまごサンドにビールは必需品ということになる。もちろん「仕方なく」である・・