上かつ丼 材木座 土手
材木座に通うようになった20年前にこの店も開店したと記憶している。場所は材木座商店が大きくカーブするそのおへその近くである。それ以来、20年近く通い続けている。
おかみさんの横でよちよち歩いていた小さかった男の子が今や配達や厨房で働いている姿を見るとお互い歳をとったと痛感する。
ここの麺類ははっきり言って普通である。これといって特に特筆するところはない。出前用の麺というのは伸び切らないような妙な腰がある。あれがいけない。
ところがここの上かつ丼はそれらに比して中々である。あくまで私が薦めるのは上かつ丼である。天丼や普通のかつ丼ではない。上かつ丼である。私はカツに入っている豚肉の脂身が好きではない。どうしても残してしまう。ところがここの上かつ丼はヒレ肉を使う。だから残さなくて済む。それに揚げたて出来たてのそれは汁が熱々のご飯に染み込んでこれがまた旨い。客に媚びを売らないその姿がなんとも頼もしいのだ。
刑事ドラマで犯人がかつ丼を食べながらつい自供してしまうのは理解できる。これを食べたら誰だってほっとして安心してしまう。つい本音が出るだろう。
小さな頃、どんぶりをもってガツガツ掻きこむような食べ方をすると母親から犬食いだと注意された。我が家のゴールデンは確かに腹っぺらしでその兆候はあるが、さくらに限っては決して犬食いではない。それにかつ丼ばかりはどんぶりを持ってガツガツと食べていいと思う。人に不快な思いをさせなければ一番美味しく食べられる食べ方がその料理の一番良い食べ方だかと思うから。だって食は命の糧なのだからね。
材木座は鎌倉の中でもローカル色が強い。地元の人たちが未だに元気で働いている。商店街の外れに位置する光明寺では定期的に市が催される。ここの山門は見事である。また蓮の池と枯山水の庭も有名だ。土手の2軒隣の萬屋酒店にはいつもお世話になっている。店をやっている時は中々手に入らない日本酒を回してくれた。ここは夕方からは立ち飲みバーになる。缶詰を肴に地元の人に交じって一杯やる。中々乙なもんだ。
土手の上かつ丼を食べると妙に落ち着くのはそういった記憶の襞が胃袋に吸い込まれるからなのかもしれない。納得。