味のメートル原器 イン・アンド・アウト
あまりにも食に関する事を話題にするものだから、人からは飲食関係の人と思われる事が多い。確かに15年間は2足の草鞋ならぬ掛け持ちで小さな店を切り盛りしていたのだからやぶさかではないのだが、今となっては完全な趣味と思って戴きたい。
我が家の長男は美味し物が大好きである。小さい頃から味にはうるさかった。不味いものと美味しい物を見分ける舌を先天的に備えていたようである。そしてもうひとつ彼はケチである。不要な物にお金を掛けない。これは小さい頃から23歳になった今でも変わらない。
彼にはお小遣いは与えなかった。彼は必要な時はその理由を述べてその都度貰っていたからだ。彼の方からお小遣いが欲しいと言う事はなかった。
今、世の中にはグルメバーガーなる高級で見た目も豪華なハンバーガーを売る店が多くなった。そのはしりといえば1号店を青山にオープンさせ、鎌倉の若宮大路のサーフショップの隣にもあるKであろう。だが彼はこうしたグルメバーガーには目もくれない。何故なら彼の判断の基準は常にマクドナルドだからだ。マクドナルドの値段と味と比してどうなのか、これが彼の導きだした結論である。恐るべしマック!!こうして国民食マックが誕生した。
私などハンバーガーに出会ったのが遅かったので自分の基準というものを持ち合せていない。こうなるともはや根なし草である。あちらが旨いと聞けばあちらに、そちらが良いといえばそちらに移動するハチドリの如くせわしないのである。
11年前にロスに出掛けた。海岸線沿いにサンディエゴまで南下している途中に派手な看板を見つけた。矢印で入口と出口を表しているような標識と見間違う看板には「イン・アンド・アウト」と書かれていた。運転をしてくれたM子さんに導かれその店に入ると、客席はごく普通である。日本のファミレスのようである。ところが運ばれてきたチーズ―バーガーはバンズ、パテ、トマト、レタスの量が丁度いい。パテは牛肉の味がする。これならいける完食した。ポテトも旨かった。
ところがこうした普通に旨い店が日本にはない。店の名前はソウルファンなら80年代に似た曲があったので覚えやすいだろう。
おりしも、丁度その少し前。富が谷から東大教養学部の裏門に向かって暫く行った右手に簡素な木造の建物でグルメバーガーの先駆けとなったフレッシュネスバーガーの1号店がオープンしていた。こちらは完全に日本人に向けた商品である。内装はアメリカンだが商品は小振りに作って、マヨネーズを効かせたものだった。
私は考えた。これでは味のメートル原器にはなれないのだと。あのイン・アンド・アウトが小さな頃からあって食していたならばきっとメートル原器になっていたはずだ。そう思った記憶がある。