朝吹真理子さんの「きことわ」を読んでいるうちに変な錯覚を覚えた。
ある夏の日の出来事・・・・
10歳になる少年は夏休だというのにどこにも行く予定がなく、毎日をただ蝉の鳴く声を聞きながら過ごしていた。
唐突に父親が「海に行こう」と言い始めた。
少年は打ち寄せる波や浮き輪が波間を漂う太陽の燦々とした真夏の浜辺を思い浮かべていた。
一家が行ったのは新潟県の鯨波、住んでいたところからは大洗もここも等距離だったのに、ここを父親は選んだ。この当時、南へいくという華やかさはこの一家には所帯していなかった。
駅を降り立ち、咽返るようなねっとりとした湿気と蝉の音を聞きながら、ゆるやかな民宿へと続く坂道をリュックサックを背負いながら降りて行く。足は重い・・・
夏の日本海はべたなぎで。まるで湖のようだ。海の色は入浴剤を溶かし込んだようにどんよりとしている。
母とは年の差のある父親だったが、家にいるときとは違い海では年齢相当に若返っていた。
どこからとも持ちこんだヤスを片手に沖まで泳いでいく姿は始めてみる父親の等身大の大人だった。
ゆるやかな風と匂い・・・この夏の気だるさが少年には一番こたえた・・・・・
0 件のコメント:
コメントを投稿