カツカレー 恵比寿 山田ラーメン
カツカレーはカツ+カレーと思っている人はもう一度初等科で基礎勉強されることをお薦めする。カツカレーは一つの食べ物である。間違ってもカツとカレーの間に句読点を付けるべきではない。そんなことしたら折角の美味しさが半減どころか無くなってしまうのだ。私は無性にカツカレーが食べたくなる。カツカレーは家で食べることはまずない。いや絶対に食べないと断言しておこう。もしこの禁苦を破ったならば皆さんの前でひれ伏せてカツカレーの神様にお詫び申し上げることにしよう。
カツカレーのカレーはカツカレーのカレーでなければならない。巷ではこのカレーの事をルウと呼ぶそうだが、ルウはルウである。カレーではない。そもそもカツカレーのルウは小麦粉で延ばされた優しい味を纏わなければならない。香辛料の効いた外国臭いルウは禁物である。あくまでカレーはcarreyではなく、カレーなのである。
一方、カツが問題である。普段はヒレかつを好む私もこの場合にはロースかつでなければならない。ヒレかつのカツカレーなど言語道断、お茶の子さいさいである。
そしてもうひとつこのカツは揚げたてでなければならない。冷めていたらもう全てが台無しである。いわよくば揚げたてのカツにカレーがじゅるじゅると音を立てて供されるものが最上である。
私は恵比寿に長いこといた。恵比寿はご存知の通り下町なのである。駒沢通りはオリンピックの時に拡張され、それまで走っていた路面電車はなくなり、涼しい顔した街並みに姿を変えた感もあるが、どっこい今でも街並みのあちこちに看板建築も残り下町風情を探すことが出来る。
私のいた事務所の斜め前に山田ラーメンなる店がある。赤い暖簾に札幌西山製麺特製ラーメンと記されている。もちろんラーメンは特有の腰があり、旨いのだが、私はここのカツカレーが大好物である。この店は寡黙なご主人が一人で切り盛りしている。手伝うのは家族と思しき人たちが総出で客をあしらう。決して媚びるでも尊大でもなく、ちゃきちゃきと客をさばくのだ。しかしである。
もしあなたがここで必ず食したいと思うなら相当の覚悟が必要だ。何しろ昼間の2時間半しか店が開いてないのである。司法試験を受けるご仁が運だめしのつもりでここで食すと言うからお分かりいただけるかと思うが、そのぐらい難関なのである。狙い目と言えば11時半の暖簾が掛けられるのと同時に入るのが賢明である。もちろん今日もそうした訳である。あふれんばかりのキャベツを落とさずにカレーと混ぜながら綺麗に食べることが出来たならばあなたは既に上級者の仲間入りだ。
私が支払いを済まそうと席を立つと見たことがある人が入ってきた。もちろん相手は私のことを知らない。駒沢通りに黒塗りのフーガを待たせて一人で入ってきた人はミスタービーンに似ているが眼光の鋭いルノーの人だった。彼は座るや否やカツカレーを注文した。
私は目の前の皿をみながら口元から笑みがこぼれた。
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