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2012年12月20日木曜日

AM11:00 Sunday

AM 11:00 Sunday

美佐子を乗せた浩一郎のカーボンブラックのBMWは第三京浜を横浜に向かって走っていた。浩一郎はときに大きな図面を使うこともあり荷質の広いワゴンタイプの車を乗り継いできたが、この車も同様だった。浩一郎は慣れた手つきで左手で頭上のスイッチを押し、初夏の日差しを室内に取り込むようにガラスサンルーフを開けた。

雲が流れるように美佐子の上を通過していった。美佐子は浩一郎から昨年のクリスマスにプレゼントされたフォーナインの赤く縁取られた大きめのサングラスを掛けなおし、浩一郎の横顔をみた。浩一郎の横顔は40歳を超えるとは思えないほど無駄がなくシャープだった。それはやせ過ぎて頬が出て身が窪んでいるそれではない、ちゃんとあるべきところに筋肉が付き、大人の男の表情を作っていた。

車は横浜公園で高速を降りて横浜スタジアムを迂回するように港の方角に直進した。中華街に右折する車をするりと交わして浩一郎のBMWは地下の駐車場に車を停めた。

美佐子の息子はこの一週間姉のところにいる。美佐子が家を離れたのと同じころに姉は実家を出て結婚した。姉には息子と同じ年齢の女の子と男の子の双子が居た。姉は田園調布に暮らしていた。夫はもともとコンピューターのプログラムの仕事をしていたが、ふとあるきっかけで友人と一緒に起業した会社が開発した公開鍵暗号の特許を取得した事でマスコミの脚光を浴びビジネス的にも大成功をおさめた。姉は美佐子のことをずっと気遣っていた。

美佐子が前夫と離婚する際にも自分のことのように美佐子を守り保護した。美佐子側の弁護士は夫の同級生だった。そんな経緯もあり、浩一郎と付き合い始めた最初から、美佐子は姉に浩一郎を紹介した。

姉は紹介された自由が丘の洒落たイタリアンレストランで浩一郎を見るなり、リーデルのグラスに並々と注がれたシャルドネを飲み干し、美佐子にそっとウィンクして微笑んだ。ワインの銘柄はカリフォルニアのコングスガードの「JUDGE」というワインだった。
浩一郎と美佐子は駐車場の階段を出て表通りに出た。浩一郎と美佐子はマリンタワーの正面に建つ白い建物にドアマンに導かれて美佐子に続き浩一郎も軽く会釈をしながら入っていった。





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