すだち蕎麦
元来、我儘で一筋縄ではいかない性格からか蕎麦の好みも相当うるさい。美味しいと思っている蕎麦屋でも、決まった蕎麦以外は滅多に頼まない。ましてや変わり蕎麦などもっての外、メニューにあると早々に閉じてしまうか退散する始末だ。
ところがその蕎麦は違った。
真夏の暑い日、疲れがたまって、昨晩の酒も胃に残り食欲がない。そんなときにこの蕎麦と出会ったのである。蕎麦屋の名前は「土山人」東京。私のオフィスから徒歩六分位のところにある。
同じ六分でも山手通りとこの目黒川沿いでは、この真夏は雲泥の差である。排気ガスと直射日光の照りつける大通りと違って、目黒川沿いは日陰があるし、時折ポツン、ポツンと並ぶ店の前には水が打たれたりしている。そんな目黒川沿いを歩いていくのだ。
その店は山手通りが目の前に大きくなる直前にある。階段を下りていくと三和土に瓦が嵌めこまれている。昭和初期に建てられた西欧建築というのは和洋折衷の趣があって良い。もっともこの場合の和は中国も視野に入れての東洋的という意味で使われるのだが、まあそんな事はどうでも良いがこの文人風雅な建物は私にとって気持ちがよいのである。
店内には皮のソファーが間を空けて置かれている。地下なのにドライエリアがあって日光が斜めに差し込んで明るかった。
運ばれてきたそれは一面に美しい緑色のすだちが広げられ、見るからに夏らしい。そして器の中にはそれ以外は何も見えない潔いものだった。
店員さんに聞くとすだちは食べないのだそうである。香り付けらしい。貧乏症の性分からか、すだちを家に持ち帰って何とかならないかと思案する間に妻はとっくにそのすだちを別の皿に移して蕎麦を食べ進んでいた。
蕎麦は細く、しかも適度なコシがあり、滑らかである。出汁は醤油と鰹節が控えめである。口に入れるとすだちの爽やかな香りが鼻腔をくすぐり、ほんのりと薄い酸味が喉を通って行く。あくまで薄く。蕎麦と出汁の相性もいい。蕎麦を食べ終え、出汁も飲みきった後に蕎麦湯がやってきた。ここの蕎麦湯は今流行りのドロドロ系と普通系の中間あたりだ。出汁は甘すぎず丁度良いが、蕎麦湯の香りがないのが残念である。
食べ終えて表に出る。真夏の暑い日差しが相変わらず、頭の真上から照りつけている。それでも幾分涼しくなったような気がするのは、すだちの成せる業か、それとも錯覚か・・・
追伸 写真はどちらも同じ店のすだち蕎麦、上が今年、下が昨年・・・美味しかったのは今年・・・小さな青いすだちにあたるかは時の運ですな・・・
出店 中目黒「土山人 東京」
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