中島京子さんの短編「東京観光」に「ゴセイト」というものがある。
実は私も小学校の頃、同じような体験をしていた。
私の住む北関東のK市はかつては日本の上海とまで言われ、織物業の盛んな街であったが、当時すでに外国製の安い製品にその座を奪われ、まるでチューブを外された延命患者のように徐々に衰退していた。
彼の名は確か永田君といっていたと思う。彼のその後の消息は知らない。
風の噂では調理人になったとも、交通事故で死んだとも、またやくざの抗争で服役しているとも聞いた。
彼は正確に言えば中島京子さんの「ゴセイト」とは違う。
午前中には学校に来るのだから少なくとも「ゴセイト」ではない。
ただ、かならず授業を抜け出す。
先生も慣れたもので、ある一握りの生徒を追跡させるのだ。
選ばれた生徒はまあ普通に勉強が出来て、運動もそこそここなせる輩が選ばれる。
家が税理士をしていて、N社の株がカップヌードルの誕生で大儲けして、自宅を新築したH君(一橋に進学後、今は大手の証券会社Mインベ****の役員)や私、足の速いY君などが選ばれた。
彼の行き先は決まっていた、理科実験室の前の水槽のところか、音楽室の裏庭だった。
彼を捕捉しても、すぐには授業に戻らない。特別に与えられた自由な時間こそ我々の特権だった。
数時間を費やし、やっと見つけた風に授業に戻る時にはそろそろ給食の準備が整っていた。
今でも、あれは幻だったのではないかと疑うことがある。そもそも永田君はいたのだろうか?
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